心理療法の種類

(1)認知行動療法

(2)EMDR

(3)自我状態療法

(4)ソマテック・エクスペリエンシング
(Somatic Experiencing®;SE™療法)

(5)スキーマ療法

(6)ストレスマネジメント・問題解決療法

 

認知行動療法

最近では最も科学的なエビデンスを持った心理療法です。定型的な進め方で心の問題を明確にし、修正をしていきます。考え方の偏りや問題のある行動傾向など、認知的な問題や行動的問題を修正することで、抑うつや不安などの感情的問題を解決します。

うつ病や不安障害,パニック障害,強迫性障害,人格障害,幻覚妄想,トラウマなど幅広い問題に対応することができます。また、認知行動療法から発展してきた、マインドフルネスやアクセプタンスコミットメントセラピー(ACT)、メタ認知療法などの第3世代の認知行動療法の技法を取り入れています。

また、トラウマ治療においては、トラウマ体験における恐怖などの感情や身体感覚をゆっくりと感じることで、トラウマ反応を徐々に低減させていく持続的暴露療法や、トラウマ体験の処理が滞っているスタックポイントを見つけ出し、そのポイントにおける認知や行動を修正することでトラウマ反応を処理していく認知処理療法などの手法も取り入れています。

 

EMDR

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対して、科学的にエビデンスのある心理療法です。さらに、精神疾患や精神衛生の問題、身体的症状の治療にも、学術雑誌などに成功例が記述されています。

従来の心理療法が5年、10年かけてトラウマを落ち着かせていくプロセスをEMDRでは非常に短時間に進めることができます。トラウマ体験のすべてを細かく語ることは必要とはされないため、大変ストレスの少ない方法です。

主に目を左右に動かす眼球運動を使用しますが、パルサーという振動子(携帯のマナーモードの振動のようなもの)を使って体の左右に交互に同じ刺激(両側性刺激)を与える方法も使用します。この両側性刺激によって脳を活性化してトラウマを処理することができる状態にします。

 

自我状態療法

自我状態療法(Ego State Therapy)は、Watkins夫妻(1993)によって開発された心理療法です。自己と呼ばれるものや人格というものは、単一の自我で形成されているわけではなく、その時々の体験をもった複数の自我によって形成されていると考えます。自我状態とはその自己の一部分(パーツと呼ばれています)のことです。

それは、それ自身の信念や欲求、感覚体験、目的、役割などを持っており、その人の中に内なる声として現れたり、イメージとして現れたり、身体感覚、感情、色などとして現れることがあります。

自我状態は、

①それまでとは違う環境に適応するとき、
②成長過程で重要な他者の「取り入れ」が生じるとき、
③トラウマティックな出来事に対処しなくてはいけないとき、

に形成されると考えられています。

ある自我状態が主となる自我状態から大きく断絶された状態(解離)であれば、主たる自我状態はその存在に気がつかないことがあります。ただ、自我状態は解離性同一性障害(多重人格)における「交代人格」のように人物像として出てくるとは限りません。

自我状態の問題は、その人の内面で何らかの葛藤や機能不全があるときに、様々な症状として表面化します。場合によっては、心理的な回復を阻害する要因になることもあります。

そのときに、軽度のトランス状態に入り、イメージを通して自我状態にアクセスし、それらと話し合ったり、癒しの作業をすることで、トラウマを処理したり、問題となる葛藤を解消したりすることで、心身の平衡状態を取り戻します。

 

ソマテック・エクスペリエンシング
(Somatic Experiencing®;SE™療法)

omatic Experiencing® をPeter Levine博士が開発したトラウマ治療の心理療法です。
Levine博士は、トラウマ反応は、トラウマを体験した時に脅威に対する神経系の防御反応であると理解し、そこに①闘う、②逃げる、③硬直するという反応があることを見出しました。

闘うときや逃げるときには、自律神経において交感神経が活性化し、動いて脅威から身を守る反応をします。しかし、闘うことも逃げることもできない時には、背側迷走神経系の副交感神経が反応して、身体は動かずに硬直することで身を守ろうとします。

車で言えば、アクセルをふかすのが交感神経で、ブレーキを踏むのが背側迷走神経系の副交感神経です。トラウマの状態というのは、アクセルを全開にした後で急ブレーキをかけた状態です。

急ブレーキがかかると、感覚が麻痺したり、記憶を失ったり、体が動かなくなったりなどの解離症状が現れます。この解離によって苦痛に満ちた体験から離れることができます。交通事故に遭った人が、事故の瞬間を覚えていなかったり、子ども時代の性的虐待の犠牲者がその出来事を覚えていなかったりするのは、この解離によるものです。

蛇に睨まれたカエルのように、硬直状態に陥った動物は、外敵が去った後で硬直することをやめ、身を震わせることで過剰に活性化した交感神経を発散させて、落ち着いた状態へと移行します。野性の動物は、人間のように社会的制約がないために、この発散のプロセスを自然に行うことができます。そのため、野生動物は身に起こる脅威や危険をトラウマとして抱えることはありません。

しかし、人間の場合は、社会的な制約により十分に震えることができなかったり、あまりに発達した知能(大脳新皮質)によって不適応な意味づけや理由付けによって硬直をゆるめることができなくなったりします。

そのため、過剰に活性化された交感神経を発散することができず、神経系に蓄積されたままになってしまいます。リヴァイン博士は、この行き場を失って蓄積された過剰なエネルギーが、フラッシュバックやパニック、不眠、血管系の問題、内臓機能の不全など様々な症状を作り出していると考えました。

SE療法では、この過剰なエネルギーを少しずつゆっくりと解放させていきます。例えば、トラウマを体験した時にできなかった「未完了の動き」をゆっくりとすることで、過剰に活性化した交感神経のエネルギーを発散させ、その動きを完了させます。そうすることで、その動きをしようとする反応、すなわちトラウマ反応が終了していきます。

SE療法では、トラウマやその体験について「言葉で」語ることは重視されません。身体の状態を感じ、それに呼応して身体が自然に反応し、身体が少しずつエネルギーを解放していくことが重要で、これが従来の治療法と違う画期的な点です。

(参考:ピーター・リヴァイン著、藤原千枝子訳「心と身体をつなぐトラウマ・セラピー」雲母書房より)

当オフィスでは、このSE療法のエッセンスを活かしてセッションをしています。
*現在SEP養成トレーニングの中級が修了し、2023年に上級トレーニングを修了する予定です(公式のSEPとして認定される予定です)。

 

スキーマ療法

認知行動療法において自動思考を生成させる信念体系のことをスキーマ(schema)と呼びます。虐待やネグレクト、非養育的な環境で育ったなどの体験により、歪んだスキーマが形成されます。臨床心理学の研究では、自分は愛されていない、必ず失敗するなどの18の非機能的な信念があることがわかっています。

このスキーマによって、うつ病などの気分障害のみならず、人格障害などより複雑化した病態が形成されます。この非機能的なスキーマを修正するために開発されたのが、スキーマ療法です。

例えば、欠陥スキーマが活性化すると、人の目を恐れるチャイルドモードに陥ります。そこで、新たにヘルシーアダルトモードと呼ばれる、情緒的に温かい大人のモードをイメージや感覚、行動などを通して練習し、人目を恐れるチャイルドモードを落ち着かせ癒していきます。

その過程で欠陥スキーマが修正され、人目を恐れない安定し、自信を持った状態になることができます。こうしたプロセスは治療的再養育と呼ばれますが、この再養育を通して様々な問題の根源にある愛着の傷を癒していくのがスキーマ療法です。

 

ストレスマネジメント・問題解決療法

認知行動療法の理論を生かしたストレスマネジメントのスキルを用いて、職場や家庭などにおけるストレスやストレッサーへの対応法や、ストレス状況下における心身のコントロールを保つ方法を話し合います。

また、問題を整理・明確化することで、解決策が自ずと創出されます。そのプロセスを臨床心理学の幅広い専門性を持ってサポートいたします。

特に休職や復職に関わる問題や、職場ストレスへの対処に関しては、リワーク施設などで多くの方の支援に関わってきた実績があります。

 

本棚1